「前屈みになると腰が痛い」
先日来院された方が訴えていた症状です。仕事でよく体を使うということもあり、以前にも腰痛で来院したことがある方です。この時もその前に来院した時と訴えていた症状は同じでした。
初診ではないことや症状も同じため、前の症状が再発したんだなと思い、あまり詳しい問診をせずに治療を始めました。
触診で違和感
鍼をする前に、確認のために痛みがあるという腰椎4番、5番辺りを触診しました。すると、こわばっている感じもなく、患者さんも押されても全く痛くないとのことでした。
一般的な腰痛は、痛い場所は緊張が強いことが多いので、患部を押されると痛かったり気持ち良かったりします。しかし、そのような感じが全くなく、健康な人の腰を押した時と同じでした。
これは普通の腰痛とは何か違うぞと感じたので、今回の腰痛が起こった経緯や痛みが出る動きを詳しく確認することにしました。
首と腰の関係
話を聞くと、「腰が痛くなる前の日に、仕事で長時間上を向いていた」「仰向けで寝た状態から起き上がる瞬間も痛い」ということを聞けました。
上を向いている時に負担がかかる場所といえば首です。仰向けから起き上がる時にも、最初に頭を動かします。前屈みの動きについても、細かく分析すると腰を曲げるよりも先に顔を下に向けます。なので、長時間上を向いていたことで首に負担がかかり、顔を下に向けられなくなったことに原因がありそうだと予測を立てました。
首を触診すると、頚椎7番に強い緊張を見つけました。一般的には知られていませんが、頚椎と腰椎の動きには深い関係があります。何らかの原因で首の動きが悪くなると腰の動きも悪くなり、腰痛が出ることは珍しいことではありません。
ここで試しに、患者さんに顔を下に向ける普通の前屈と、顔は前を向いたまま腰だけを曲げる前屈をやってもらいました。
結果は、
普通の前屈・・・30度ほど曲げたところで痛みが出る
顔を前に向けたまま前屈・・・90度曲げても痛みが出ない
首を動かさなければ腰痛は出ませんでした。
これで、顔を下に向ける動きが頚椎7番の緊張のために邪魔をされ、腰痛の原因になっていると確信を持ちました。
治療に使った鍼は一本だけ
原因を頚椎7番の緊張だと特定したので、その緊張を緩めるために一本だけ鍼をしました。
鍼を抜いてもう一度前屈をやってもらうと、痛みはなくなり、仰向けからの起き上がりも痛み感じずにスムーズに起き上がれました。
鍼をしたのは一本だけで、症状が無くなったので治療も一回で終えました。
最初に患者さんが訴えていた「前屈みになると腰が痛い」ということをそのまま受け取り、腰にばかり目が行ってしまうと、いつまでも改善できていなかったと思います。どこが痛いかよりも「どういう時に痛いか」「どういう経緯で起こったか」が大事なので、これからも視野を広く持って治療を行っていきたいです。